高校生の純愛ストーリー

手話で伝えた「好きです」
「“好きです”って、手話で伝えるのは、すごく緊張しました。でも、彼女が笑ってうなずいてくれたとき、あぁ、ちゃんと届いたんだなって思いました」
そう語るのは、地方都市の県立高校に通う高校2年生の健太さん(仮名・17歳)。
彼が思いを寄せるのは、同じクラスの結衣さん(仮名・17歳)。
彼女は生まれつき聴覚に障害があり、日常会話は手話と読唇術を使っている。
健太さんの告白がSNSで話題になったのは、友人がその瞬間を動画に収め、本人の了承を得て投稿したことがきっかけだった。
再生回数は10万回を超え、「心が温まった」「こんな告白、素敵すぎる」といったコメントが寄せられた。
しかし、この“感動の告白”の裏には、言葉の壁を乗り越えようとした、2人の小さな努力と純粋な気づきの積み重ねがあった。
手話を学び始めたきっかけとは?

「最初は、どう話しかけていいか分からなかった」
2人が出会ったのは高校1年生のクラス替え。
偶然隣の席になり、健太さんは次第に結衣さんの存在が気になり始めた。
「最初は、ほんとにどう声をかけたらいいのか分からなかったです。こっちが話しても聞こえないし、ノートに書くのもなんか緊張して……」
そんなある日、授業中に結衣さんが消しゴムを落とし、それを拾って渡した健太さん。
すると、彼女は手話で「ありがとう」と伝えてくれた。その瞬間、彼の中で何かが動いた。
「“ありがとう”って、手話って、こんなふうに伝えるんだ。
なんかすごく、まっすぐな言葉に感じたんです。
そのとき思ったんです。ちゃんと知りたいって」
言葉以上に大切なもの――休み時間の“手話レッスン”
それから健太さんは、図書室で手話の本を借り、YouTubeで手話動画を見ながら、少しずつ学び始めた。
最初は簡単なあいさつから、次第に「今日の給食、何だった?」「好きな音楽はある?」といった会話ができるように。
「休み時間とかに“教えて!”って感じで聞いてました。彼女も、笑いながら何度も繰り返して教えてくれました。僕が間違えると、“違う違う!”って(笑)」
言葉がなくても伝わるものがある——そう気づき始めたのは、この頃だった。
手話で伝えた告白、その瞬間

“想い”を伝えるということ
告白を決意したのは、2人が出会ってちょうど1年が経った春の日だった。
「口で言うのは簡単だけど、彼女には届かないかもしれない。
どうしたら、ちゃんと“好き”って気持ちが伝わるだろう?って考えたんです」
そこで健太さんが選んだのは、“手話で告白する”という方法だった。
手話辞典で「好き」「君」「付き合ってください」などの表現を調べ、何度も練習した。
「手の動きもだけど、表情が大事なんですよ。緊張してると顔がこわばっちゃって(笑)それでも、気持ちを込めようと思って」
ことばじゃなくても、気持ちは届く
放課後の校庭。桜が咲き始めた日。
健太さんは、結衣さんの前で手を動かした。
「好きです。よかったら、付き合ってください」
彼女は驚いた表情を見せたあと、少し涙ぐんで、笑顔でうなずいた。
「告白されたとき、びっくりしました。でも、ちゃんと私の“言葉”で伝えてくれたのが本当に嬉しくて。手話って、たくさんの人が“特別なもの”だと思ってるけど、彼は“普通のこと”としてやってくれた。それが心に響いたんです」
そう語る結衣さんのまなざしは、やさしく、そして誇らしげだった。
手話がつなぐ、新しいコミュニケーション

広がる“手話”の輪
2人は今、毎日LINEと手話で会話を続けている。
最近では健太さんが、ろう学校での文化交流会にボランティアとして参加したり、クラスメイトに簡単な手話を教える“手話リーダー”になったりと、周囲の関心も自然と広がってきているという。
最初は“特別なもの”だった手話が、いつの間にか“身近なもの”になりつつあった。
若者が教えてくれた“本当に伝える”ということ
この物語は、ただの恋愛エピソードではない。
“伝える”という行為は、言葉だけではなく、手の動き、表情、そして想いのこもった姿勢で成り立つ——そんな当たり前だけど、私たちが忘れがちなことを思い出させてくれる。
「声が出なくても、ちゃんと届く。僕たちって、普段“言葉”に頼りすぎてるのかもしれない。でも、相手にちゃんと向き合えば、言葉がなくても心ってつながるんだなって思います。」
ことばじゃなくても、気持ちは届く。
そして、その気持ちに耳を澄ますことができたとき——
私たちの世界は、もっとやさしく、あたたかくなれる。
※この物語はフィクションです。