先進国で精神疾患が増え続けている”理由”とは?多くの精神疾患は治療対象ではなかった?

凸凹村管理人

現代社会が以前に比べて便利で快適なはずなのに、なぜ精神疾患が増加し続けているのか。精神科医であり、『人間はどこまで家畜か 現代人の精神構造』を執筆した熊代亨氏は、先進国の社会や文化、環境が、かつては「普通」とされていた人々にも精神医療を必要とさせるほどの圧力をかけていると指摘しています。

アメリカでは5人に1人がうつ病

アメリカの若者の5人に1人がうつ病に苦しんでいるという現実があります。ニューヨーク市立大学の研究によれば、アメリカ人の10人に1人、特に若者の5人に1人がうつ病と診断されています。ただし、精神疾患の有病率はさまざまな要因によって左右されるため、これらの結果を解釈する際には慎重さが求められます。

近世以降、精神医療は徐々に整備されてきました。初期の段階では、犯罪者や浮浪者との区別なく精神病者を収容する施設が設立されました。しかし、これらの施設はしばしば人権を無視した取り扱いが行われ、同様の症状を持つ人々を単純に集める場として機能していました。

精神医療は、かつては社会からはみ出した人々を対象としていましたが、同時に社会からの防衛システムとしても機能してきました。しかし、過去の反省に基づき、より人権を尊重した精神医療の実践が求められ、制度改革が進められています。

古代ギリシア時代では異なる文脈で捉えられていた

古代ギリシア時代においては、私たちが現代で「病気」として認識する精神疾患は、まったく異なる文脈で捉えられていました。

プラトンの哲学によれば、狂気は神話的な世界と密接に結びついており、神の啓示や創造的な活動に関与するものと見なされていました。そのため、統合失調症やうつ病のような現代の精神疾患が、古代ギリシア社会において「病気」として完全に理解されていたわけではありませんでした。

古代ギリシアの人々は、精神の異常を神秘的な力や神の介入として解釈する傾向がありました。症状が現れた場合、それは神々の意志によるものと考えられ、神託や神秘的なメッセージを受け取る者として特別視されることもありました。

そのため、現代のような医学的なアプローチや生物学的な裏付けに基づく診断は存在せず、疾患の根本的な理解が欠けていました。

近代の医学の進歩

統合失調症やうつ病などの精神疾患が、生物学的なメカニズムや遺伝的特徴と関連していることが明らかになったのは、近代の医学の進歩によってでした。しかし、古代ギリシア社会では、これらの疾患が単なる生理学的な異常ではなく、神話や宗教的な文脈で解釈されていました。

時代や文化によって病気の認識や評価が変わることは、精神疾患において特に顕著です。身体の病気については、その病理学的特徴が基本的に不変であり、肺がんや痛風などはその性質が変わらずに病気として認識されます。

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