難聴で「耳が遠くなった」は認知症のリスクに…「聴こえにくい」を軽視してはいけない理由とは?

凸凹村管理人

難聴が高齢者の生活に及ぼす影響に関して、東京慈恵会医科大学の栗原渉講師は重要な示唆を提供しています。彼は、「耳が遠くなると社会的な交流を避けるようになる。その結果、転倒だけでなく、認知症やうつ病の発症リスクが高まる」と述べています。

65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症

認知症は、認知機能の低下によって社会生活に深刻な影響を与える疾患です。高齢者の中には、認知症やその前段階である軽度認知障がいを抱える人が増加しており、その数は年々増加の一途をたどっています。厚生労働省の報告によれば、65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症であり、年齢が上がるほどその発症率は高まります。

認知症のリスク因子「難聴」

認知症のリスク因子として、the Lancet Commissionが示した12の要因の一つに「難聴」が挙げられています。特に中年期における難聴は、認知症の発症リスクを1.9倍高めるとされています。さらに、難聴が10デシベル(㏈)悪化するごとに認知症の発症リスクが増加することが明らかにされています。

しかしながら、一連の研究からは、補聴器を適切に使用することで認知機能の悪化を抑制できる可能性が示唆されています。このことから、今後の認知症診療においては耳鼻咽喉科医の積極的な関与が不可欠とされています。そのため、難聴に対する早期かつ適切な対応が、高齢者の健康と生活の質を向上させる上で重要であると言えます。

聴力が低下すると社会的な交流を避ける傾向が強まる

耳の聴力が低下すると、人は社会的な交流を避ける傾向が強まります。この傾向は、加齢による聴力の低下が始まる高音域から始まり、40代ではあまり自覚されないことが一般的ですが、60代になると聴力が低下する音域が増え、聴力の低下を自覚する人が急増します。70歳を過ぎると、ほとんどの音域で聴力が低下し、65〜74歳の3人に1人、75歳以上では約半数が難聴に悩むと言われています。

加齢性難聴の患者は、ことばを理解するのに困難を感じ、コミュニケーションや社会生活に支障をきたすことがあります。さらに、聞き取りが難しくなることで、高齢者は社会的な交流を避ける傾向があり、それにより孤独感やうつ病を悪化させ、幸福感を低下させる可能性があります。

認知機能の低下と加齢性難聴の両方を引き起こしている可能性

難聴が認知機能にどのような影響を与えるかについては、まだ完全に理解されていませんが、共通原因仮説、情報劣化仮説、感覚遮断仮説など、複数の有力な仮説があります。これらの仮説は、難聴と認知症の関係についての理解を深める上で重要な役割を果たしています(Sladeほか)。

加齢が脳機能に影響を及ぼすという説には、共通原因仮説があります。この仮説では、脳における神経細胞の障がいが、認知機能の低下と加齢性難聴の両方を引き起こしているとされています。高齢者では、いくつかの知覚・認知領域で並行して変化が起こることが知られており、例えば、認知機能の低下と視力の低下が同時に進行する現象が挙げられます。

さらに、加齢と加齢性難聴の両方で脳の萎縮が観察されることから、生物学的な加齢が広範な脳機能に影響を及ぼす可能性が示唆されています。この事実は、加齢が脳の神経細胞に損傷を与え、それが認知機能の低下や難聴などの問題を引き起こす可能性があることを示唆しています。

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