「障がいは個性」、健常者と共に働ける職場へ 精神疾患がある若者を人材活用する企業の狙い

凸凹村管理人

鬱病や統合失調症、発達障がいなどの精神疾患を抱える若者を、企業が採用する事例が増えています。一定割合での障がい者雇用が義務付けられていることに加え、人手不足の深刻化や、精神疾患について社会的認知度が高まっていることも背景にあります。「働きやすさ」の実現には、仕事内容や勤務条件、周囲の理解などの課題があります。企業には、本人が能力を発揮できる環境を整える取り組みが求められています。

就活生の54%「鬱を自覚」

「鬱病などは身近な病気。精神科を受診することは〝普通のこと〟として受け止められています」学生の就職活動の支援サービスを手掛けるABABA(アババ、大阪)で広報を担当する尾上七海(おのうえななみ)さん(24)は、最近の若者についてそう語ります。

かつて「精神病院」には暗いイメージがつきまといましたが、近年は軽症でも気軽に通える、清潔で明るい「メンタルクリニック」や「心療内科」などの医療機関が増えました。「若い人たちは自分の精神疾患を知られることに抵抗が小さくなっている」と話す尾上さんによると、人気バンド「サカナクション」のボーカル、山口一郎さんが鬱病を公表しながら活動を続けていることも、若者に影響を与えているといいます。

精神疾患を発症しやすい状況

一方、学生の就職活動は長期化し、「交流サイト(SNS)で周りが内定をもらっているのに自分はもらえていないと知り、焦りを募らせる学生が多い」といいます。ABABAが昨年10月、就職活動を経た学生100人に行った調査によると、54%が「鬱の自覚症状がある」、30%が「就活中に死にたいと思ったことがある」と回答しました。

医師の診断がなくても、自覚症状を抱えて悩む人がいます。若者が強いストレスにさらされ、精神疾患を発症しやすい状況にあることが分かります。

人手不足で要件を緩和

その結果、いったん就職しても早い時期に退職する若者も多いとみられ、中途採用を含む労働市場に精神疾患を抱える若者が増加し、企業は雇用に向けて対応を迫られています。

人材関連事業などを手掛けるレバレジーズ(東京)が昨年11月、企業の中途採用担当者330人を対象に調査したところ、半数が「精神疾患を抱える若者から応募があった経験がある」と回答しました。そのうち「新型コロナウイルス禍を経て、精神疾患を抱える若者からの応募割合が増加したと感じる」と回答した会社は75・7%に上りました。

「法定雇用率」の制度変更も採用を促している

さらに同調査では、半数以上が精神疾患を抱える若者の採用要件を緩和していることも判明しました。理由として、46.6%が「早急な人員確保を行う必要があったから」と回答し、若年層の人手不足が背景にあることが浮き彫りになりました。

障がい者雇用促進法により、企業には従業員に占める障がい者の割合を「法定雇用率」以上にする義務があります。障がい者手帳を持っている患者が対象で、平成30年4月から、身体障がい者、知的障がい者に精神障がい者が追加されました。この制度変更も、精神疾患のある若者の採用を促しています。

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