発達障がい者の「スーパー総務」への道「新・ダイバーシティ経営企業100選」川田製作所の雇用戦略

凸凹村管理人

発達障がいの方でも「スーパー総務」として重用されるケースが増えています。新・ダイバーシティ経営企業100選に選ばれた企業の社長が、採用方針について語っています。

一定数以上の従業員を抱える事業主には、障がい者の雇用が義務付けられています。身体、知的、精神の各障がい者の割合を定めた「法定雇用率」は、今年4月に2.3%から2.5%に引き上げられました。企業は従業員40人ごとに障がい者を1人以上雇う必要がありますが、現在の達成率は50%程度にとどまっています。政府は段階的に雇用率を引き上げ、2026年度には2.7%を目指しています。企業側もこの対応が急務となっています。

一方で、法定雇用率の対象外の小規模な会社でも、障がい者を純粋な「戦力」として評価し、積極的に採用する取り組みが見られます。公的な優遇制度を活用しながら、人手不足の解消に取り組む現場も増えています。

彼女がいないと仕事が回らない

従業員のタイムカードチェックや郵便物の受け取り、納品書や受注票の作成など、多岐にわたる業務をこなしている佐々木彩花さん。神奈川県小田原市のプレス加工会社「川田製作所」で事務員として働いています。高卒で入社して9年目の彼女は、大型のモニターに表示された業務リストを真剣なまなざしで見つめながら、1つずつ確実に業務をやり遂げ、パソコン上のチェックリストで完了ボタンを押していきます。

佐々木さんは発達障がいを抱えています。指示された仕事は正確にこなせるものの、曖昧な依頼が苦手だと話します。例えば、「この資料を3~4枚ほどコピーしておいて」と言われると、何枚なのか決められずに混乱してしまいます。そこで事前に「いつ、何をするのか」という一覧表を作成し、それに沿って動いています。

インターネットを駆使して自ら学ぶ

川田製作所は従業員20人ほどの小さな会社で、総務担当は佐々木さんしかいません。年末調整の手続きなどもこなしていますが、これはインターネットを駆使して自ら知識を学びました。最近は生産管理の作業にも挑戦し、職域を広げています。業務リストに登録済みのタスクは計115種類に上ります。

同社の川田俊介社長は「彼女がいないと回らない。わが社が誇るスーパー総務です」と胸を張ります。佐々木さんも「たいしたことないです」と照れくさそうに笑いながら、「仕事は楽しい。成長できている実感があります」と充実した表情を見せています。

実は佐々木さんを採用した際、最終面接に進んだ候補者は3人いて、あとの2人は健常者でした。なぜ、あえて障がいを抱える佐々木さんに内定を出したのか。川田社長はその決め手をこう語ります。

障がいの有無は関係なく、ウチに合うかを考えた結果です。彼女は高校でパソコン部に所属し、就職を見据えてワードやエクセルの資格を取得しています。目標へ向かって努力する姿勢を感じられました

5人雇用は必要な人材として選んだ結果

入社当初の佐々木さんは、コミュニケーション面で同僚とうまくいかないこともあったという話があります。そこで川田社長は現場のリーダー格の社員を中心に勉強会を何度か開きました。札幌市がウェブ上で公開している資料「発達障がいのある人たちへの支援ポイント『虎の巻シリーズ』」を用いて特性を学びました

佐々木さんからも要望を聞いたうえで、周囲が具体的な指示を出すように心がけると、彼女もそれに応えて懸命に働きました。成果が上がるようになると、徐々に信頼関係が醸成されていきました。その過程で業務の内容を明確化したことで、無駄が減って効率化が進む効果も得られました。

資金力が乏しい中小企業には、余計な人員を雇う余裕がありません。そんな中、川田製作所では、佐々木さんを含めて計5人の障がい者が働いています。区分も精神や知的、身体障がいとさまざまです。

会社に必要な人材を採用していたら、結果的にこうなった

従業員の少なさから法的な義務は負わないものの、雇用率は法定の2.5%を大幅に超えています。もちろん、1人ひとりが主力として活躍しています。川田社長は「積極的に障がい者を受け入れているという意識はない。会社に必要な人材を採用していたら、結果的にこうなった」と説明します。

一方、障がい者ならではの公的な優遇制度をフル活用しているのも事実です。特にメリットを感じるのは、障がい者雇用のトライアル制度です。この制度は厚生労働省が管轄する事業で、障がい者を原則3カ月(テレワークは最大6カ月、精神障がい者は同12カ月)実際に雇ってみて適性を見極められます。期間中は月額最大4万円(精神障がい者の場合は同8万円)の助成金も事業者側に支給されます。

「お試し期間で一区切り、その先は結果次第、という認識を事業者と労働者側の双方で共有できるのは大きい」と川田社長は指摘します。当然、中長期的な雇用を見据えた制度ですが、自社にこの人は合わないと判断した際でも断りやすいからです。

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