知的障がい者が挑む芸能界への道:芸能界に挑戦する理由と課題 常識を打ち破る新たな挑戦

凸凹村管理人

「知的障がい者が芸能人になるなんて無理」そんな社会の常識や固定観念を変えようと、知的障がいがある人向けの芸能事務所が近年、相次いで登場しています。

身体障がい者の場合は見た目で分かりやすく、メッセージ性も持たせやすいですが、知的障がい者は外見では分からないことが多いです。そのため、せりふを覚えたりコミュニケーションを取ったりする上で特別な配慮が必要になります。これは身体障がいとは異なる難しさです。

それでも挑戦しようという当事者と芸能事務所が出てきているのはなぜなのでしょうか。そして、この道は開けるのでしょうか。

モデル・俳優としての挑戦

「素敵な共演者の方々と一緒にこの作品に出ることができ、とても嬉しかったです」今年2月、東京都内のホールで開かれた映画「わたしのかあさん―天使の詩―」の上映会で、町田萌香さん(36)は主演の寺島しのぶさんらと舞台に立ち、そう挨拶しました。

この映画は、知的障がいがある両親の下に生まれた子どもの視点で親子の愛情を描いた作品で、エキストラなどで知的障がいのある当事者約30人が出演しています。町田さんもその一人です。

軽い知的障がいがあるものの、181センチの長身を活かし、普段の仕事の傍らモデルや俳優として活動しています。これまでに東京パラリンピックの開会式や舞台などに出演し、「私を通して、分かりにくい障がいのことを知ってもらえたら」と話します。

世界で勝負できるモデルを育てたい

町田さんが所属するのは、障がい者向けの事務所「グローバル・モデル・ソサイエティー」(東京)です。元モデルの高木真理子さん(62)が「障がいがあっても、世界で勝負できるモデルを育てたい」と2022年に設立しました。

この事務所には、知的や身体に障がいがある約20人が所属しており、月に1回開かれるオーディションには毎回10人前後の応募があり、希望者は多いそうです。ウオーキングのレッスンなどを通じて知的障がい者と10年以上付き合ってきた高木さんは、障がい児の親や世の中にこう言いたいと語ります。

「彼女たちだって、教えればいろいろなことができるようになる。何をするにしても、最初から『できない』と可能性を狭めないでほしい。やる気や使命感を持つと、人は変わる」

社会の常識や固定観念を少しずつ変えている

町田さんと高木さんのように、知的障がいがある人々に対して新たな道を切り開く人々の存在が、社会の常識や固定観念を少しずつ変えています。知的障がい者が輝く舞台は、確かに存在し、その道は今まさに開かれつつあります。

「彼らは『どう見られるか』を意識せずに演技ができる。初めて見たとき、心を揺さぶられた」。そう語るのは、障がい者専門の芸能事務所「アヴニール」(東京)の社長、田中康路(50)さんです。

田中さんは、障がい者のドラマ出演などに関わってきた経験を生かし、2017年に「アヴニール」を設立しました。現在、知的障がいを中心に約50人が所属しており、舞台の自主公演や芸能スクールの運営などに取り組んでいます。

「必要な点を配慮すればすごい演技ができる」

田中さんは「彼らの世界観を理解し、必要な点を配慮すれば、『これこそがエンターテインメントだ』というすごい演技ができる」と話します。また、「芸能界はその人の魅力を売り物にする世界。障がいという特性を生かすのが悪いこととは思わない」とも述べています。

所属タレントの一人、小籔伸也さん(29)は中学生のとき、学校に行くのがつらくなり、「毎日の出来事をドラマだと思うようにしていたら、気持ちが楽になった」と語ります。それが芝居に興味を持ったきっかけでした。

その後、軽度の知的障がいと発達障がいがあることが判明しました。現在、アルバイトをしながらアヴニールで演技のレッスンやボイストレーニングに励んでおり、学園ドラマに出演することを目標に、「『諦めの悪い俳優』になりたい」と話しています。

共演者たちに生まれる相乗効果

一般の芸能事務所も、障がい者の才能を引き出す取り組みを始めています。俳優の小西真奈美さんらが所属する「エレメンツ」(東京)は、社内プロジェクトとしてダウン症がある人の舞台出演やダンス活動を支援しています。

この事業は10年ほど前に始まりました。「ダウン症の人たちが挑戦できる場があまりにも少ない。可能性を広げられる挑戦の場を作ろう」との思いからスタートしました。2021年の東京パラリンピックやダイバーシティー(多様性)を重んじる社会の流れが追い風となり、ここ数年、テレビへの出演機会が増えています。

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